「ふふ~ん♪」
春、色々な生命が芽吹き始める時期。
様々な別れと新しい出会いがある時期。
一人鼻歌を歌いながら私は自室の模様替えを行っていた。
お店を珍しく休みにし、心機一転して今年も頑張ろうと部屋を片付ける。
もう毎年恒例になってきちゃったわねぇ・・・。
大方の物を移動し終えると本棚などから取り出した山積みの本に目を向ける。
これも、毎年仕分けるの苦労するのよね、なんだかんだ捨てられなくて・・・。
頬をパンパンッ!と叩き気合を入れて仕分けに取り掛かる。
読みかけの文庫本、辞書に自分が書いた研究ノート・・・
一冊一冊を丁寧に確認しつつ、いるいらないを仕分けしていく。
仕分けていると一つ、見慣れない本を見かけた。
黒い革の表紙に金色の鍵のマークが描かれた本・・・。
気になったので手に取り、中をペラペラと捲ると
「・・・あぁ、これこんな所に仕舞っていたんだっけ。」
本の中身を見ながら私は近くの椅子に腰を掛けた。
中身は翻訳された魔導書、そっか・・・もう1年は経つのね。
確かあの時もこのくらいの時期だった気がするわ・・・。
静かにページを捲くり、思い耽るように私は記憶を辿って行く。
――――――
春、始まりと終わりの時期。
冷ややかな気温が去っていき、暖かな気温に変わっていく時期。
私は道具を作る為の素材を買いに来ていた。
季節が変われば需要も変わるもの。
もちろん夢慧の商品も季節によって変えていく。
私は買った荷物を片手に持っていたメモを確認する。
「えーっと・・・」
メモを上から順に指でなぞりながら確認・・・
うん、買い忘れは無いみたいね。
安堵の息を一つ吐きながらグッと背を伸ばし、腕を上げる。
のんびりと辺りを見回してみる。
綺麗な青空、暖かな陽気、春を知らせる草花・・・なんて。
こんな詩的というかなんというか・・・私には似合わないわね。
一人苦笑しながらフラフラと歩いていると。
「っとと・・・!っぅ!?」
何かとぶつかり、尻餅を付いてしまった。
いたた・・・余所見しながら歩くもんじゃないわね・・・。
一体何にぶつかったのかしら・・・。
痛む腰と臀部を擦りながらぶつかった何かの方へ顔を向ける。
そこには自分と同じく尻餅を付いている男性が居た。
周りには男性の荷物と思わしき物が散らばっている。
そこで私はようやくこの人とぶつかったことを理解した。
「ちょっ!大丈夫!?私ったら余所見してて・・・」
自分の余所見で怪我なんてしてたら大変だわ・・・!
慌てて私は男性に駆け寄り手を差し伸べる。
男性は「大丈夫ですよ」と苦笑しながらそそくさと荷物を集め始めた。
私も手伝おうと荷物の方に目を遣る。
大きなリュックサックねぇ・・・旅行や観光ではなさそう。
食料に衣服、本に薬とか、色々な物・・・ふむ、旅の行商人ってところかしら。
いつもの癖で手伝うのを忘れて観察し推測をしていた。
ふと、視界の端に黒い革表紙の本が映る。
表紙には金色の鍵のマーク以外は何も描かれていなかった、もちろん題名も。
その本が気になり私が手を伸ばすと、慌てた様子で男性が取り上げる。
「お互いに気をつけましょうね。」
男性はそう言い残すと去っていってしまった。
あ、結局何もしてなかったわね私。
まぁ相手も気にしてなかったみたいだしいっか・・・。
あの本は結構怪しいけど考えても仕方ない。
一度去っていった相手の方に目を向け、私は帰路へと歩を進めた。
――――――
男性とぶつかってから数十分経つくらい歩くと自分の店が見えてくる。
・・・?店の入口に誰か立ってる・・・?
近づいて見ると、台車にそれなりの量のダンボールが積み、作業服で辺りをキョロキョロ見ている人。
作業服の人は私に気付くと首を傾げて
「あの、夢慧ってこの店であっているでしょうか?」
「えぇ・・・私の店に何か御用かしら?」
自分が夢慧の店主であることを伝えるとペコリっとお辞儀をする相手。
『発注されていた品物をお届けに参りました!』・・・あぁ!そういえば今日だったわね。
街で賄え無い物を発注していた事を忘れていた私は配達業者をとりあえず店に招く。
業者さんが持ってきた荷物に目を通しながら注文にミスが無いか確認する。
二人して一個ずつ範唱しながら伝票に目を通して数え、最後に差し掛かった所で私は驚いた。
あれ?これおかしくない・・・?
「えー・・・最後にクラウドスパイダーの糸が30束になりますね!」
業者さんが言葉にして、私の見間違えでは無いことが分かる。
ちょっ・・・!30!?
「ま、まって頂戴!!私そんなに頼んだ覚え無いわよ!?」
「え!ですが・・・発注書には30と書いてありますし・・・伝票にも・・・」
私の大声でビクッと肩を震わせて萎縮してしまう業者さん。
いやいやそんなこと気にしている場合ではないわ!
私は奪い取るように業者さんの持つ発注書と伝票を見比べる。
何度見返して見ても、個数の欄には『30』としっかり書き込まれている。
待て待て待て!私はこんな個数頼んだ覚えは全く無い!
私は確か『3』と書いたはず・・・!何より30束も必要ない・・・!
どうするべきかと考え、そこで閃く私。
「あ!発注書の控えがあるじゃない!」
私の声にまたもビクっと震えた業者さんをその場に待たせ自室へ駆ける。
入荷するために書いた発注書の控えが確か自室にあったはず!
間違いさえ分かれば送り返せる!
そんな期待を胸に自室の机から発注書を見つけ、確認する。
悲痛な叫びと共に私は崩れ落ちた。
――――――
今日はもう厄日なのかもしれないわ。
人とぶつかるし、発注ミスもする。
こう続くと心が折れそうね。
そんな私の嘆きを嘲笑うようにコツンッと窓を叩く音が聞こえる。
二度ある事は三度ある、窓を見れば一匹の鳩。
「ホント・・・今日はツイてないわ・・・」
窓を開ければ、鳩が私の腕に止まる。
鳩の足に付いていた封蝋のしてある丸められた手紙。
私は封蝋のマークを見る、まぁ予想はしていたわ・・・。
手紙の中身を拝見すれば予想通り。
無造作に髪を掻くと肩をガックリと落とした。
商会の御呼びじゃ出ないわけにはいかないわよねぇ・・・。
私は腕に止まる鳩を外へと飛ばすと窓を閉める。
「・・・はぁ」
深ーい溜め息を一つ吐き項垂れ、肩を竦めた。
今日はとことんツイてないのかもしれない。
手紙を丸めてゴミ箱へ投げ捨てると、服装を整えて部屋を出る。
めんどくさい、なんて思いながら私は店を後にした。
―――
今考えてみれば
人とぶつかった事も、発注をミスしたのも
全部神様の思し召し、または虫の知らせだったのかもしれない。
あの日の事が無ければ、後に起こった事も解決まで至らなかったのかもしれない。
でもまぁ、あの時の私はそんなこと微塵も思っていなかったけど。
これは春先に出会った不可解でも何でもない、事件の話。
だけどこれが私の、逢坂睡夢の日常ってやつなのかもね?
魔導書偽造事件?【上】―了―
春、色々な生命が芽吹き始める時期。
様々な別れと新しい出会いがある時期。
一人鼻歌を歌いながら私は自室の模様替えを行っていた。
お店を珍しく休みにし、心機一転して今年も頑張ろうと部屋を片付ける。
もう毎年恒例になってきちゃったわねぇ・・・。
大方の物を移動し終えると本棚などから取り出した山積みの本に目を向ける。
これも、毎年仕分けるの苦労するのよね、なんだかんだ捨てられなくて・・・。
頬をパンパンッ!と叩き気合を入れて仕分けに取り掛かる。
読みかけの文庫本、辞書に自分が書いた研究ノート・・・
一冊一冊を丁寧に確認しつつ、いるいらないを仕分けしていく。
仕分けていると一つ、見慣れない本を見かけた。
黒い革の表紙に金色の鍵のマークが描かれた本・・・。
気になったので手に取り、中をペラペラと捲ると
「・・・あぁ、これこんな所に仕舞っていたんだっけ。」
本の中身を見ながら私は近くの椅子に腰を掛けた。
中身は翻訳された魔導書、そっか・・・もう1年は経つのね。
確かあの時もこのくらいの時期だった気がするわ・・・。
静かにページを捲くり、思い耽るように私は記憶を辿って行く。
――――――
春、始まりと終わりの時期。
冷ややかな気温が去っていき、暖かな気温に変わっていく時期。
私は道具を作る為の素材を買いに来ていた。
季節が変われば需要も変わるもの。
もちろん夢慧の商品も季節によって変えていく。
私は買った荷物を片手に持っていたメモを確認する。
「えーっと・・・」
メモを上から順に指でなぞりながら確認・・・
うん、買い忘れは無いみたいね。
安堵の息を一つ吐きながらグッと背を伸ばし、腕を上げる。
のんびりと辺りを見回してみる。
綺麗な青空、暖かな陽気、春を知らせる草花・・・なんて。
こんな詩的というかなんというか・・・私には似合わないわね。
一人苦笑しながらフラフラと歩いていると。
「っとと・・・!っぅ!?」
何かとぶつかり、尻餅を付いてしまった。
いたた・・・余所見しながら歩くもんじゃないわね・・・。
一体何にぶつかったのかしら・・・。
痛む腰と臀部を擦りながらぶつかった何かの方へ顔を向ける。
そこには自分と同じく尻餅を付いている男性が居た。
周りには男性の荷物と思わしき物が散らばっている。
そこで私はようやくこの人とぶつかったことを理解した。
「ちょっ!大丈夫!?私ったら余所見してて・・・」
自分の余所見で怪我なんてしてたら大変だわ・・・!
慌てて私は男性に駆け寄り手を差し伸べる。
男性は「大丈夫ですよ」と苦笑しながらそそくさと荷物を集め始めた。
私も手伝おうと荷物の方に目を遣る。
大きなリュックサックねぇ・・・旅行や観光ではなさそう。
食料に衣服、本に薬とか、色々な物・・・ふむ、旅の行商人ってところかしら。
いつもの癖で手伝うのを忘れて観察し推測をしていた。
ふと、視界の端に黒い革表紙の本が映る。
表紙には金色の鍵のマーク以外は何も描かれていなかった、もちろん題名も。
その本が気になり私が手を伸ばすと、慌てた様子で男性が取り上げる。
「お互いに気をつけましょうね。」
男性はそう言い残すと去っていってしまった。
あ、結局何もしてなかったわね私。
まぁ相手も気にしてなかったみたいだしいっか・・・。
あの本は結構怪しいけど考えても仕方ない。
一度去っていった相手の方に目を向け、私は帰路へと歩を進めた。
――――――
男性とぶつかってから数十分経つくらい歩くと自分の店が見えてくる。
・・・?店の入口に誰か立ってる・・・?
近づいて見ると、台車にそれなりの量のダンボールが積み、作業服で辺りをキョロキョロ見ている人。
作業服の人は私に気付くと首を傾げて
「あの、夢慧ってこの店であっているでしょうか?」
「えぇ・・・私の店に何か御用かしら?」
自分が夢慧の店主であることを伝えるとペコリっとお辞儀をする相手。
『発注されていた品物をお届けに参りました!』・・・あぁ!そういえば今日だったわね。
街で賄え無い物を発注していた事を忘れていた私は配達業者をとりあえず店に招く。
業者さんが持ってきた荷物に目を通しながら注文にミスが無いか確認する。
二人して一個ずつ範唱しながら伝票に目を通して数え、最後に差し掛かった所で私は驚いた。
あれ?これおかしくない・・・?
「えー・・・最後にクラウドスパイダーの糸が30束になりますね!」
業者さんが言葉にして、私の見間違えでは無いことが分かる。
ちょっ・・・!30!?
「ま、まって頂戴!!私そんなに頼んだ覚え無いわよ!?」
「え!ですが・・・発注書には30と書いてありますし・・・伝票にも・・・」
私の大声でビクッと肩を震わせて萎縮してしまう業者さん。
いやいやそんなこと気にしている場合ではないわ!
私は奪い取るように業者さんの持つ発注書と伝票を見比べる。
何度見返して見ても、個数の欄には『30』としっかり書き込まれている。
待て待て待て!私はこんな個数頼んだ覚えは全く無い!
私は確か『3』と書いたはず・・・!何より30束も必要ない・・・!
どうするべきかと考え、そこで閃く私。
「あ!発注書の控えがあるじゃない!」
私の声にまたもビクっと震えた業者さんをその場に待たせ自室へ駆ける。
入荷するために書いた発注書の控えが確か自室にあったはず!
間違いさえ分かれば送り返せる!
そんな期待を胸に自室の机から発注書を見つけ、確認する。
悲痛な叫びと共に私は崩れ落ちた。
――――――
今日はもう厄日なのかもしれないわ。
人とぶつかるし、発注ミスもする。
こう続くと心が折れそうね。
そんな私の嘆きを嘲笑うようにコツンッと窓を叩く音が聞こえる。
二度ある事は三度ある、窓を見れば一匹の鳩。
「ホント・・・今日はツイてないわ・・・」
窓を開ければ、鳩が私の腕に止まる。
鳩の足に付いていた封蝋のしてある丸められた手紙。
私は封蝋のマークを見る、まぁ予想はしていたわ・・・。
手紙の中身を拝見すれば予想通り。
無造作に髪を掻くと肩をガックリと落とした。
商会の御呼びじゃ出ないわけにはいかないわよねぇ・・・。
私は腕に止まる鳩を外へと飛ばすと窓を閉める。
「・・・はぁ」
深ーい溜め息を一つ吐き項垂れ、肩を竦めた。
今日はとことんツイてないのかもしれない。
手紙を丸めてゴミ箱へ投げ捨てると、服装を整えて部屋を出る。
めんどくさい、なんて思いながら私は店を後にした。
―――
今考えてみれば
人とぶつかった事も、発注をミスしたのも
全部神様の思し召し、または虫の知らせだったのかもしれない。
あの日の事が無ければ、後に起こった事も解決まで至らなかったのかもしれない。
でもまぁ、あの時の私はそんなこと微塵も思っていなかったけど。
これは春先に出会った不可解でも何でもない、事件の話。
だけどこれが私の、逢坂睡夢の日常ってやつなのかもね?
魔導書偽造事件?【上】―了―
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